庭バスケの音で通報されたら|「受忍限度」の判断基準と次にやること
ある日、インターホンが鳴る。あるいは、警察から「近隣の方から連絡がありまして」と言われる。庭でバスケをさせている親にとって、いちばん来てほしくない場面です。
このとき最初に知りたいのは、たぶん2つだけです。これは違法なのか。そして、明日から何をすればいいのか。
先に結論を書きます。家庭のボール音は、騒音規制法の規制対象ではありません。だからといって「何dBまでならセーフ」という線もありません。民事で問題になるかどうかは、受忍限度という考え方で判断されます。そして受忍限度の判断材料のうち、自分で動かせるものがはっきりしています。
INDEX目次
家庭のボール音は騒音規制法の対象ではない
「騒音の法律」と聞いて思い浮かぶのは騒音規制法ですが、この法律が規制しているのは、工場や事業場に設置される特定施設、特定建設作業、そして自動車騒音です。家庭内の生活音やボールの音は、そもそも規制の枠組みに入っていません。
自治体の条例に「生活騒音」の項目があることもありますが、多くは「近隣に迷惑をかけないよう努める」という努力義務の形で、罰則や数値基準を伴いません。
環境省の騒音に係る環境基準には住宅地で昼間55デシベル以下といった数値がありますが、これは行政が道路交通騒音などを評価するための目標値です。庭でボールをつく音に直接当てはめて「基準内だから問題ない」と言える性質のものではありません。逆に、少し超えたから即違法というものでもありません。
つまり、警察が来ても「何dBを超えたから違反」という判定はされません。実際、この種の連絡でその場が「指導」で終わるのは、取り締まる根拠法が無いからです。
判断の枠組みは「受忍限度」
では何で判断されるのか。民事の場面で使われるのが受忍限度という考え方です。ご近所同士なら多少の音は互いに我慢すべきだが、その我慢の範囲を超えていれば、民法第709条の不法行為として損害賠償や差止めの対象になり得る、という枠組みです。
受忍限度を超えているかどうかは、一つの数値ではなく、複数の事情を並べて判断されます。実務で挙げられるのは次のようなものです。
- 音の大きさと性質(衝撃音か、連続音か)
- 時間帯(早朝・夜間かどうか)
- 頻度と継続時間(毎日何時間か、週末だけか)
- 地域性(住居専用地域か、幹線道路沿いか)
- 先後関係(どちらが先に住んでいたか)
- 加害側が回避措置を取ったか
- 当事者間の交渉の経緯
この並びを見て気づくと思いますが、自分で動かせるのは下の2つだけです。音の大きさは物理で決まり、地域性と先後関係は変えられません。時間帯と頻度はある程度調整できますが、子供の練習量を削るのは本末転倒です。
だから、通報や苦情を受けた後にやるべきことは「回避措置を取った事実を作る」ことに集中します。何もしなければ、時間が経つほど自分の立場が悪くなります。
物損・飛び出しは別の問題として扱われる
混同されやすいので分けておきます。ボールが隣家に入る、車に当たる、公道に転がる——これは音の問題ではなく、所有権の侵害と交通の妨害の問題です。受忍限度を論じる前に、明確な権利侵害として扱われます。
音の苦情と一緒に「ボールが飛んでくる」と言われている場合は、先にそちらを止める必要があります。フェンスの高さや素材の判断は下記にまとめています。
▶ 関連記事:庭バスケのボール飛び出し防止フェンスは4メートルが基準|「道路族」と言われないための境界線対策
明日からやること
1. 時間帯を決めて、相手に伝える
口約束でも構いませんが、「平日は◯時から◯時まで、日曜の午前はやらない」と具体的に伝えます。伝えた日付と内容は自分のメモに残しておきます。
これは相手のためだけではありません。受忍限度の判断で「交渉の経緯」と「回避措置」が見られるとき、伝えた事実そのものが効きます。逆に、黙って続けている状態がいちばん弱い。
時間帯の線引きの考え方は下記で詳しく書いています。
▶ 関連記事:近所迷惑で警察に通報されないために。庭バスケの騒音トラブルを未然に防ぐ「挨拶のマナー」と時間帯ルール
2. 音源そのものを変える
時間帯を守っても、音そのものが変わらなければ相手の不満は残ります。そして回避措置として最もはっきり示せるのが、地面を変えることです。
コンクリートやアスファルトは、ボールの衝撃をそのまま反響させます。うちの駐車場もそうでした。硬い面を弾性のある面に替えると、音は消えませんが「パアン」という硬い破裂音が「ダムッ」という低い音に変わります。響き方が変わると、同じ音量でも耳に刺さらなくなります。
床材ごとの違いと、完全に無音にはならない理由は下記にまとめています。
▶ 関連記事:庭バスケの「ダムダム音」を抑える防音対策|近所迷惑にしないための床材と消えない理由
3. 記録を残す
やった日の練習時間、対策として何をしたか、相手とどんなやり取りがあったかを、日付付きで残します。スマホのメモで十分です。
記録は相手を疑うためのものではなく、自分が何をしてきたかを説明できるようにするためのものです。話がこじれて第三者が入る段階になると、この有無で通りやすさが変わります。
やってはいけないこと
「法律で決まっていないのだから問題ない」と返すこと。これが最悪です。規制法の対象外であることは、受忍限度の判断で何の助けにもなりません。むしろ交渉の経緯として不利に働きます。
もう一つは、道路での練習です。敷地の外はそもそも自分の裁量の外で、音の問題ではなく交通の問題になります。
まとめ
- 家庭のボール音は騒音規制法の対象外。だから「何dBまでOK」という基準も存在しない
- 民事では受忍限度で判断される。考慮されるのは音量・時間帯・頻度・地域性・先後関係・回避措置・交渉の経緯
- このうち自分で動かせるのは回避措置と交渉の経緯。そこに集中する
- 飛び出しと物損は音とは別問題。先に止める
子供に「もうやめろ」と言う前に、打てる手がまだ残っています。順番としては、時間帯を決めて伝える、地面を変える、記録を残す。この3つです。
なお、この記事は法令と一般的な考え方を整理したもので、法律相談ではありません。受忍限度を超えるかどうかの判断は、音量・時間帯・地域性・交渉の経緯といった個別の事情で変わります。既に損害賠償や差止めの話が出ている、内容証明が届いたといった段階であれば、自治体の法律相談窓口や弁護士に実際の経緯を見てもらってください。
出典
- 騒音規制法(e-Gov 法令検索)|規制の対象範囲
- 民法(e-Gov 法令検索)|第709条 不法行為
- 騒音に係る環境基準について(環境省)|地域の類型別の基準値
条文と基準値は上記の原典で確認できます。